アメリカがフロリダ州ウェストパームビーチにあるマッキーンタワーは、経営理念・収支・規模・建物内外のデザイン・立地・運営管理などほとんどの項目で「優」といえる老人ホームであり、住んでみたい魅力にあふれている 。
通常同じホームの見学は相手先の迷惑も考慮して3回ぐらいを限度にしているが、このホームは通算5回もお邪魔したほど、完成度の高いコミュニティである。
1999年版米国の医療・ 介護施設のデザインの専門雑誌で優秀賞をとった建築。特に注目すべき点は、敷地が2500坪12階建てという日本でも十分実現可能な規模だったことである。
それよりもこの建物は、高齢者施設における大きな問題に、 画期的な解決策を示した世界初、唯一の施設ということである。
それは三つのケアレベルの入居者のエリアと玄関を傾斜のある敷地と中層ビルの12のフロアを利用して完全に分離したことである。
宗教法人の CCRC はともかく、民間営利型の場合、どんな高級施設でもオープンして5年も経てば、杖・ウォーカー・車椅子の利用者や、服装・表情・歩き方などがいかにも、 よぼよぼの年寄り、とみられる入居者がロビー食堂などの共有部分に増えてきて、施設の下見・見学者にとって将来の自分らの姿を連想したり、施設のイメージが暗いものとなり、マーケティング上大きなマイナス要因となっていたのである。
この問題は人道上からも事業主・ レジデントともに 大声で議論できない問題であった。
この施設の事業主は宗教法人であるカーマライトシスターズ(カトリック系のカルメル修道会)で、1929年以来ニューヨークを中心に22ヶ所の施設を運営している。その長年にわたる経験と実績から強固な哲学と使命感を持っており、それらがこの施設の開発、運営管理に活かされている。
例えば宗教法人なのだからもう少しレベルを落として、施設の数を増やしてもっと多くの人たちに利用させては?という質問に、『年を取って仕方なく自宅を出なければならなくなった老人にこそ、このレベルの住宅・サービス・ケアを提供するのが我々の信じるところである』とのこと。また、 退職後も社会との接点をというところから一階の玄関横に朝食専用のカジュアルなダイニングルームを作り、 朝の出勤風景を見せるというアイデアも面白い。
敷地2500坪、建物12階建て、自立69戸(41㎡〜155㎡)、要支援34戸(42㎡〜64㎡)、 重介護42戸(25㎡〜36㎡)、食堂4箇所、プール、礼拝堂兼ダンスホール、 バー、手工芸室、夕日を見ながらのバーラウンジ、図書館、 ビリヤード、美容室、 カードルーム、運動室、ギフトショップなど。職員数は合計190人(常勤換算)大半が重介護部門。
*高齢者住宅新聞 2010年5月25日号掲載
「マッキーンタワー」ホームページ(アメリカのサイト)